意見の聴取（2） 秋本速雄 [フィクション]
意見の聴取（1） からの続き
秋本速雄はいつも通りの時間に家を出ると、最寄駅から会社とは反対方向の電車に乗った。仕事の休暇を取って向かう先は、神浜県の運転免許センターだ。
今から3週間ほど前に、神浜県警察本部から一通の手紙が届いた。
2か月近く前に「通行禁止違反」の取り締まりを受けた秋本は、過去の前歴もあって運転免許の停止、いわゆる免亭処分を受けることになった。今回の免亭期間は90日。90日以上の停止になる場合は”意見の聴取”の呼び出しを受ける。
初めてのことだったので ”意見の聴取”に関する情報をネットで検索した。”意見の聴取”とは行政処分が決定する前に自分の意見を言ったり、処分を軽くして欲しいと嘆願する場であるようだ。場合によっては免亭期間が短縮になることがあるらしい。
出席せずに黙って処分を確定させても良いのだが、わずかでも短縮の可能性があるならば、出席して損はないだろう。期間短縮への期待と”意見の聴取”に対する興味が半分ずつといったところで、秋本は指定日に免許センターへ出向くことにした。
秋本の趣味は車とオートバイの運転だ。休日にはかなずと言っていいほどハンドルを握り、運転を楽しむのが一番のストレス解消法である。運転免許を取得して15年、累積走行距離は10万kmをゆうに超えた。人身事故はもとより、下手をやって車をぶつけたこともない。若い頃にオートバイで雨上がりのマンホールの上を滑って転倒し、膝をすりむいたのが唯一の失敗だ。
模範的な運転手とは言わないが、決して運転が下手なわけではないし、周りに迷惑をかけるような運転をしているわけでもない。そんな自分が90日もの免亭処分を受けることに勝手な憤りを感じていたが、これも運転好きの宿命、税金みたいなものだ、と半ばあきらめの気持ちで免亭処分を受ける心づもりをしていた。
集合時間の10分前に、運転免許センターへ到着した。
指定の待合室は2階だ。階段を上ると待合室の入り口があり、そこに張り紙がしてある。
部屋の中で誰かと話すときに、サングラスや帽子をとるのは当然だろう。どうやらここに呼び出される人たちは、常識を知らない人が多いらしい。自分もその中の一人か、と思うと、ますます暗い気持ちになった。
待合室に集まった人は20人ほどだろうか。8時半に事務員らしき男性が部屋に現われ、今日の進行と運転免許の点数制度について詳しく話し始めた。
話の中で驚いたのが、県内で毎月100人程度の免許取り消し処分者がいるということ。お前らもその予備軍だよ、気をつけなさい、ということを暗に言っているのだろう。取り消しだけは勘弁だ。
”意見の聴取”は3部屋に分かれて行われるらしい。自分の整理番号と名前が呼ばれたら、部屋に入って聴取を受ける段取りだ。
事務員らしき男性が一度聴取室に入って、すぐに戻ってきた。
「それでは、これより”意見の聴取”を始めたいと思います。最初に整理番号5番の近藤和夫さん、いらっしゃいますか」
「はい」
部屋の一番奥にいた中年の男性が、返事をして立ちあがった。
つづく → 意見の聴取（3）へ
秋本速雄はいつも通りの時間に家を出ると、最寄駅から会社とは反対方向の電車に乗った。仕事の休暇を取って向かう先は、神浜県の運転免許センターだ。
今から3週間ほど前に、神浜県警察本部から一通の手紙が届いた。
2か月近く前に「通行禁止違反」の取り締まりを受けた秋本は、過去の前歴もあって運転免許の停止、いわゆる免亭処分を受けることになった。今回の免亭期間は90日。90日以上の停止になる場合は”意見の聴取”の呼び出しを受ける。
初めてのことだったので ”意見の聴取”に関する情報をネットで検索した。”意見の聴取”とは行政処分が決定する前に自分の意見を言ったり、処分を軽くして欲しいと嘆願する場であるようだ。場合によっては免亭期間が短縮になることがあるらしい。
出席せずに黙って処分を確定させても良いのだが、わずかでも短縮の可能性があるならば、出席して損はないだろう。期間短縮への期待と”意見の聴取”に対する興味が半分ずつといったところで、秋本は指定日に免許センターへ出向くことにした。
秋本の趣味は車とオートバイの運転だ。休日にはかなずと言っていいほどハンドルを握り、運転を楽しむのが一番のストレス解消法である。運転免許を取得して15年、累積走行距離は10万kmをゆうに超えた。人身事故はもとより、下手をやって車をぶつけたこともない。若い頃にオートバイで雨上がりのマンホールの上を滑って転倒し、膝をすりむいたのが唯一の失敗だ。
模範的な運転手とは言わないが、決して運転が下手なわけではないし、周りに迷惑をかけるような運転をしているわけでもない。そんな自分が90日もの免亭処分を受けることに勝手な憤りを感じていたが、これも運転好きの宿命、税金みたいなものだ、と半ばあきらめの気持ちで免亭処分を受ける心づもりをしていた。
集合時間の10分前に、運転免許センターへ到着した。
指定の待合室は2階だ。階段を上ると待合室の入り口があり、そこに張り紙がしてある。
部屋の中で誰かと話すときに、サングラスや帽子をとるのは当然だろう。どうやらここに呼び出される人たちは、常識を知らない人が多いらしい。自分もその中の一人か、と思うと、ますます暗い気持ちになった。
待合室に集まった人は20人ほどだろうか。8時半に事務員らしき男性が部屋に現われ、今日の進行と運転免許の点数制度について詳しく話し始めた。
話の中で驚いたのが、県内で毎月100人程度の免許取り消し処分者がいるということ。お前らもその予備軍だよ、気をつけなさい、ということを暗に言っているのだろう。取り消しだけは勘弁だ。
”意見の聴取”は3部屋に分かれて行われるらしい。自分の整理番号と名前が呼ばれたら、部屋に入って聴取を受ける段取りだ。
事務員らしき男性が一度聴取室に入って、すぐに戻ってきた。
「それでは、これより”意見の聴取”を始めたいと思います。最初に整理番号5番の近藤和夫さん、いらっしゃいますか」
「はい」
部屋の一番奥にいた中年の男性が、返事をして立ちあがった。
つづく → 意見の聴取（3）へ
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スーパーブラックバード
秋本っ！の運命はいかに！
あき？本＝ポンか！？おいおい！
by 月光14th (2010-03-04 10:16)
免停もらったんかな？？（－－；
by bis (2010-03-04 15:39)
>部屋の中で誰かと話すときに、サングラスや帽子をとる
>のは当然だろう。どうやらここに呼び出される人たちは、
>常識を知らない人が多いらしい。自分もその中の一人か、
>と思うと、ますます暗い気持ちになった。
→私自身は、30日免停をくらったとき、東京地方裁判所
立川支部に出頭しましたが、そのとき、これと同じような
掲示を見て、やはり、くらーい気持ちになりました。
(^^;
世の中には、係官に対してサングラスや帽子も取らないほど、
礼儀というものを知らないやつがいるのか、という驚き。
私の聴取の時には、そこまでひどい人はいませんでしたが、
係官に呼ばれても、ちゃんと挨拶をして入室する人は、
ほとんどいないし、聴取が終わっても、「お忙しいところ、どうも
ありがとうございました」などと、お礼を言う人も、ほとんど
いませんでした。
いま、自分は、そんなやつらの中の一人と見られているのだ、
と思うと、すごく落胆を感じました。まっとうに生きてきた人
にしか、感じることができない葛藤ですよね。
by tak (2010-03-04 17:15)
趣味の世界だけの運転ならどうって事ないのですが仕事でも運転してる場合は免停はまさに死活問題ですね。
免停で業務滞り会社辞めざるおえなくなった人も何人か見ています。
ので例え趣味の世界のツーリングでも羽目外さすを心掛けてます。
by イナテツ (2010-03-04 22:27)
★月光14thさん
この話はフィクションです（笑）。続きをお楽しみください＾＾。
by akipon (2010-03-04 23:27)
★bisさん
秋本の免亭は確定のようです。あとは日数が何日になるか、ですね。さてどうなりますか。
by akipon (2010-03-04 23:28)
★takさん
秋本はあいさつ程度の礼儀はわきまえているようですが、意見の聴取に呼ばれているところを見ると、まっとうな人間とは言えないかもしれません。他人のふりみて、じゃないですが、反省が必要なのは間違いないです。
by akipon (2010-03-04 23:30)
★イナテツさん
秋本はサンデードライバーなので、とりあえず仕事はクビになっていないようです。趣味のツーリングに行けなくて落ち込んでいることでしょう。さて、免亭はどうなりますか。
by akipon (2010-03-04 23:31)